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〔後編〕市場で存在感を放つ企業グループに

【VOICEs -社内インタビュー】 キーポート・ソリューションズの代表取締役社長であり、2016年4月からサイオステクノロジーの取締役専務執行役員 兼ビジネス開発事業部長を務める森田昇にビジネス戦略を訊くインタビュー記事「市場で存在感を放つ企業グループに」の後編です。

ピープル2016年6月21日

撤退の中で得た教訓

〔前編〕市場で存在感を放つ企業グループに からの続き

リーマン・ショック後、KPSは事業や取引先を見直し、証券会社向けのシステム開発などに注力して全社一丸で危機を乗り越えました。この時、経営者として痛切に感じたことは、事業ポートフォリオの組み入れにおけるバランスです。金融業界に限らず、1つの業界に依存するのは外部環境に左右されやすく、高い事業リスクを負うことになります。ある業界がダメでも他の業界で収益をあげられるようなバランスの取れた事業ポートフォリオを組まなければならない、常に新たなジャンルに挑戦していかなければならない、ということです。骨身にこたえました。

事業間における「シナジー」という言葉の使い方にも用心しています。良い時はプラスの相乗効果があるのですが、悪い時にはマイナスのほうに相乗効果が働く可能性があります。マイナスに働くくらいならば直接的な関連性がないほうがよい時すらある、ということです。

― 事業ポートフォリオを見極めるためのポイントはどこにあるでしょうか。

規模は異なりますが、例えば、GE(ゼネラル・エレクトリック)のような会社が参考になるでしょう。約140年の歴史を持つGEは、事業ポートフォリオを大きく入れ替えながら今日、自ら市場をリードできるヘルスケア、航空、エネルギー、医療、金融などグローバルにおける様々なビジネス領域で存在感を放っています。かつて主力事業だった保険、樹脂、メディアなどは手放すなど思い切った舵取りもしています。GEのほかにGoogleやAmazonは、スピーディに事業にメリハリをつけ、多様なタレントを集めるオープンイノベーションに力を入れているようです。
さて、KPSでは、リーマン・ショック後もM&Aを行ってきました。2010年には、アクセス解析ツール「サイトトラッカー」に関する営業権を譲り受けました。不動産REITの管理システムを手がける会社も引き継ぎました。また、2013年には、金融情報の提供会社である株式会社QUICKとKPSが、再びK-ZONEを分社し、共同経営することでブランド力、マーケティング力を向上させることができました。K-ZONEは株式の売買が仮想体験できる日本最大の取引シミュレーションゲームサイト「トレダビ」などのサービスを提供しています。
KPSは現在、金融関係を軸に事業を展開する企業グループですが、事業開発に必要な技術の調達、買収、または経営資源を集約するための事業の売却、他グループとの統合など、その時代に応じたM&Aを戦略的に行いながら今日に至ります。

中には芽の出なかった事業もあります。しぶとさ、粘りも大事ですが、あまり引っ張り過ぎても社員も辛い思いをすることになります。そういう時こそ、冷静に見極め、経営判断を下す覚悟が必要です。ただし、守りに入っても生き残れるわけではありません。この劇的な市場環境の変化の中で、チャレンジを止めたり、油断したりしてしまえば、他社にいつその座を奪われてもおかしくないのです。

グループ全体として成長を遂げる

― サイオステクノロジーは、1997年に株式会社テンアートニとして創業して以来、さまざまな事業を展開し、今日に至ります。その取締役として、サイオスはどのような企業を目指しているのでしょうか。森田さんの見解を聞かせてください。

サイオスには大規模な仮想環境・多彩なクラウド環境に対応するHAクラスターソフトウェアのLifeKeeper/DataKeeperや、ITOA(ITオペレーション分析)SIOS iQ、業務の効率化やスピードアップを実現する複合機アプリケーションなど特徴的な製品・サービスを軸とする事業領域が存在しています。それぞれの事業が伸びていくことは重要です。仮にそれぞれの事業に波があっても、企業としての統一ブランドの中で互いに補い合い、グループ全体を俯瞰すると着実に成長を遂げている。そうした姿が今後の成長には求められると考えられます。
― 2015年、サイオスはKPSと、Profit Cube Inc.をグループ企業に加えました。その狙いとは。
KPSは先述したように主に証券業界向けサービスを、一方、PCIは銀行業界向けのソフトウェア製品の開発販売において革新的な技術とノウハウを有しています。この2社が加わることで、革新的技術と金融が文字通り融合することとなり、サイオスがFinTechなど今後新たな市場にアプローチすることが可能になるのです。日本に限らず企業集団が大きく飛躍するときに金融事業への参入が成長の機会となっていることは、サイオスとしても十分に意識する必要があるでしょう。

― このM&Aを通じて、サイオスの事業規模、売上高や人員の規模も拡大しました。

サイオスとして新たなプロダクトやサービスを開発・提供することは重要です。しかし、それらの製品がお客様に認知され選ばれなければ市場には残れません。企業としての社会的なミッションも果たせなくなります。
したがって、いつとはまだ具体的に言えませんが、サイオス・グループにおいては、売上高500億円、1000億円というマイルストーンが求められます。自社の製品やサービスが、お客様から選ばれるためには、市場の中で何か際立った存在感が必要だからです。サイオスにおいても「成長ビジネスを自社で開発する」「M&Aによって時を買う」。どちらも市場でプレゼンスを発揮する上で重要な戦略だと考えており、喜多社長ともこの点では一致しています。

いずれにしても、成長とチャレンジの場が常にある環境を創ることで多様な人財が集まり、サイオスグループが共感しながら共創、そして共走していくような企業集団に、名実ともになることができればと思っています。

● 森田昇(Noboru Morita)
サイオステクノロジー 取締役専務執行役員 兼ビジネス開発事業部長
キーポート・ソリューションズ代表取締役社長

早稲田大学理工学部卒業後、積水化学工業株式会社、株式会社三菱総合研究所、アーンスト・アンド・ヤング・コンサルティングなどを経て、現在に至る。新規事業の立ち上げや事業経営に数多く携わる。

関連ページ: 市場で存在感を放つ企業グループに 〔前編〕『ヘルスケア領域の新たなソリューション』