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SIerが考えるべき新たなビジネスモデル「レガシーSIからの脱却」

日本のSI(システムインテグレーション)業界でみられる共通の課題、そして解決の道筋とは――。BCN Conference 2021 秋 オンラインのセッションで、日本OSS推進フォーラムの理事長などを務めるサイオステクノロジー上席執行役員の黒坂肇が当社の取り組みを交えながら語りました。

テクノロジー2021年12月10日

コロナ禍で現れつつあるSI業界の変化

日本におけるSI業界ではかねてより次のような課題が挙げられてきました。
・システム開発を発注する顧客が本来やるべき要件定義をSIer(システムインテグレーター)に丸投げする慣行
・顧客の要求を満たさないと完成責任として課されるSIerへのペナルティ
・生産性が高い優れたエンジニアの高い能力が適切に評価されず、短期間に良いものを納品すると逆にSIerが損をしてしまう人月ベースでの工数計算
・「割に合わない開発投資は運用・保守で1年以上かけて回収すればよい」という悪魔のささやき――。

「運用・保守などの作業代行をやり続けることはエンジニアをはじめ人材が疲弊します。そうではなく、SIを生業とする企業として『これはうちに任せてください、誰にもできないことを実現してみせます』と自信をもっていえる技術力を磨いているか。それを求めて対価を払ってくれる顧客を掴むマーケティングを行なっているかが重要です。サイオステクノロジーのSI事業でもあらためて自問自答しました」(黒坂)。

折しもコロナ禍でクラウドサービスを利用したコミュニケーションやオンライン会議の利用が当たり前になり、全社員の働く環境がフルリモートワークになりました。SI事業のあり方を抜本的に見直すタイミングでした。

競争領域を変えたOSSを戦略的に使いこなす企業が市場をリード

黒坂は、ビジネスには「競争領域」と「非競争領域」があると指摘します。

図1競争領域と非競争領域.png
ビジネスにおける競争領域と非競争領域

携帯電話を例に取るとかつて1990年代、携帯電話の基本ソフト(OS)開発で各通信事業者とメーカーは互いにしのぎを削り合っていました。ライバル会社に技術を奪われないよう組織内にクローズされた状態でソースコードが開発されました。

「しかし、その携帯電話はまもなくスマートフォンに市場を奪われます。席巻したのはグーグルのAndroidでした。グーグルはOSのソースコードをオープンソースソフトウェア(OSS)として公開しました。考えてみるとほとんどのスマホユーザーにとってOSは特に関心ないことです。ユーザーにとって大切なのはスマホでどんなことができるか、どんなアプリやサービスが利用できるかです。グーグルはそれまで競争領域だったOSを非競争領域に変えてしまいました」(黒坂)

その非競争領域において重要な役割を演じているのが、OSS(オープンソースソフトウェア)です。おおきく3世代に分けられます。

第1世代は1990年-2000年頃のOSS。Linuxや無償のブラウザが登場しました。商用ソフトの置き換えによるコスト削減など、いまでもこの時期のOSSのイメージをお持ちの方は多いかもしれません。
第2世代は2010年代頃。ハードウェアの進化にともなって計算、データ処理、開発・運用作業を高速化・効率化するソフトウェアなどが脚光を浴びました。ビッグデータを扱うHadoop(分散データ処理システム)もその1つです。
第3世代、2020年代は処理に熟練した人間の思考やスキル、行動を代替またはそれ以上の能力を発揮させるソフトウェアが相次いで登場しました。

「OSSは今日、自動運転やAI、医療、農業、流通、飲食サービスなど産業・社会のあらゆる分野を支えています。最新のソフトウェア技術がOSSから生まれているといっても過言でありません」(黒坂)

電気自動車などを生産するテスラや、Uberなど企業もこぞってオープンソースに戦略的投資を行なっています。テスラはオープンイノベーションを加速するためにOSSを活用。またUberはデジタルネイティブな企業と真正面から戦っても太刀打ちできないと判断し非競争領域のソフトウェアを独占するのではなくOSS化してマーケットシェアをいち早く拡げることに注力しています。ほかにも、自社のエンジニアが開発したソフトをOSSにするなど、エンジニアの対外的な評価を高める姿勢を積極的に見せることで人材の獲得や社外流出を防ぐ動きもあります。

「OSSって最近聞かないよね、と言われることもありますが、OSSが非競争領域にシフトしていることが理由です。むしろOSS開発のプロジェクト数は近年大幅に伸びており、OSSをいかに使いこなしていくかが、企業や産業界においては重要になっていくと考えています」(黒坂)

図2OSSの役割.png
変化するOSSの役割

自分たちができること、やりたいことを明確化して市場に伝える

サイオステクノロジーのSI事業では、何ができるのか、何をやりたいのか、エンジニアやセールスチームとともに本音で語り合いました。

「エンジニアがやりたくないことも明確にしました。たとえば『ハードウェアが壊れたから駆けつける』という業務です。我々は、自ら何かを生み出すビジネスをやるんだ、そのために新しい技術にチャレンジしよう、誰かがやっている作業を代行する意識は一切持つのをやめよう、と選択と集中を徹底しました。セールス担当者に対しても『なんでも引き受けます』『多くの人材が売りです』ではなくて、高い技術力に裏付けられた私たちのできることを真に欲している顧客に提案、提供するように協力を求めました」(黒坂)

エンジニアもお客様と直に向き合い、どんな思いを形にしていくのか一緒に考える技術力を磨くために新しい知識や習得した技術はどんどんオープンに情報発信し、自分たちのやりたいこと、できることを外に伝えるように心がけました。

サイオステクノロジーは創業以来、OSSに強みを持っています。「サイオスOSSよろず相談室」を中心としたさまざまなOSSのサポートサービス、大学など国内100を超える文教領域における統合認証システムの導入、上流技術コンサルや半SI半サービスを展開するAPIマネジメントなどいずれもOSSの知見が生かされています。さらに若いエンジニアを含めて学んだ知識や技術について、SIOS Tech. Labhttps://tech-lab.sios.jp/ )で情報発信をしています。OSSのソースコードしかり、情報は発信するところに集まってくることを知っているからです。

「こうした取り組みはエンジニア自身の成長にもなっていきます」(黒坂)

サイオステクノロジーの得意とすることを突き詰めた、サイオステクノロジーにしかできないSIをどうやってスケールさせていくか。それが、今後のテーマです。そして、進展するOSSとともに、SI業界そのものが顧客とともに変わっていかなければならない――。OSSへの期待とともに使命感を込めながら黒坂は講演を締めくくりました。

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