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Nginxによる驚異的なWebアクセラレーション

【イベントレポート】サイオステクノロジーと日本アイ・ビー・エムは2015年7月16日、クラウドサービスの活用ポイントを探るセミナーを開催。レポート前編では、Nginxの導入事例として、300万会員を突破したNTTぷらら「ひかりTV」配信プラットフォームの舞台裏をご紹介します。

テクノロジー2015年9月16日

顧客サービスを下支えするシステム基盤には、経営を取り巻く環境変化に対応する「柔軟性」や「堅牢さ」が求められます。たとえば、Webアプリケーションに開発当初の想定を上回るバースト的な負荷がかかっても快適なレスポンスを維持する仕組みや、ダウンしても復旧までの時間を最短化する可用性の強化は、サービス利用者の離反を防ぎ、さらなる集客力の向上をもたらします。

セミナーの基調講演で紹介されたNTTぷららは、日本でいち早くNginxの本格的なコンテンツ配信プラットフォームへの導入に着手した一社です。そこに至った経緯、現在の利用状況や今後の展望を、Webアプリケーションの設計・開発・管理を担当する同社技術本部 ネットワーク管理部 チーフエンジニアの大橋峰延氏が説明しました。

既存のPOST/GET用キャッシュ製品が不要に

NTTぷららでは、世界初となる高品質4K映像の商用VODサービス「ひかりTV」を2014年10月にリリースしました。その映像配信をバックエンドで支えるロードバランサー(以下、LB)として、オープンソースのWebサーバー「Nginx」のエンタープライズ版「NGINX Plus」を利用しています。

「Nginxは、コミュニティ版を利用していた頃から、その群を抜く高速性や安定性、ユニークな機能に着目していました」(大橋氏)


NTTぷららを支える基盤技術。Nginxを含むOSSが積極的に利用されている

2008年にスタートした「ひかりTV」は会員数を右肩上がりに伸ばし、300万会員を突破したのは2014年度末のこと。会員は、専用端末のひかりTV対応STB(チューナー)と接続したテレビ、もしくはひかりTVチューナー内蔵のテレビ、またはパソコン(PC)、スマホ・タブレットなどの汎用端末を通じて、テレビやビデオ(VOD)の視聴をはじめ、ゲーム、ブック、カラオケ、アプリ、ミュージック、ショッピングなど多彩なサービスを利用することができます。

「ひかりTVのWebアプリケーションのうち、負荷が最も高いのが、メタデータおよび画像を処理するサーバー部分でした」(大橋氏)

Webアプリケーションは、ユーザー認証およびコンテンツの購入処理、画像やビデオタイトル、番組表の表示、情報検索システムなど、(配信プラットフォームのうち放送視聴、VOD再生を除く)すべての機能やコンテンツの提供を支えます。

Webアプリケーションのバックエンド(AP/DBサーバー)とSTBなどの専用端末とはクローズド網(IPv6)を介して、また、汎用端末とはオープン網(IPv4)を介して、データがやりとりされています。

ユーザー数が100万人を突破した2010年頃は、APサーバーへ負荷が大きくなり、市販のキャッシュサーバーを導入。POSTおよびGETリクエストをキャッシュする構成に見直しました。

その後も会員数は順調に伸びていきます。

「200万人を超えた2012年頃になると、ピーク時のアクセスはC10Kに、トラフィックは数Gbpsに達していました。POST用キャッシュのメモリ容量も頭打ちになり、抜本的な構成変更を決意しました。そこで目に入ったのがNginxです」(大橋氏)

コミュニティ版のNginxをWebサーバーおよびキャッシュサーバーとして導入したところ、既存のPOST/GET用キャッシュは不要となり、Webサーバーの台数を半分に減らすことができました。

総費用は1/4に、性能は4倍に増強されました」(大橋氏)

この成果を踏まえ、ひかりTVのWebアプリケーションだけでなく、新たに立ち上げることになった数百万の楽曲を蓄積するオンラインスケールアウトストレージおよび数Gbpsの配信システム、さらにPC向け映像配信システムにも順次Nginxを適用。大橋氏の手によってNginxを用いた社内の新システムが短期間に次々と稼働を開始します。

大橋氏は、Apache2.2利用当時の状況とNginxを比べて、Nginxのほうが高速で安定していること、キャッシュの高い利便性、特定コンテンツへのアクセス制御機能、ログ出力の柔軟性を利点に挙げました。

「当社では放送専用設備から汎用サーバーへのシフトが進んでおり、Nginxの活躍の場はさらに拡がる見通しです」(大橋氏)

世界初4K/60p映像をバックエンドで支えるLBをNGINX Plusで刷新

同社では、Webアプリケーションの強化と並行して、2014年10月にリリースされた、従来のハイビジョン映像の4倍の画素数(3,840×2,160画素)を有する4K映像のVODサービスの商用化を進めていました。4K/60pでは世界初となるサービスです。ところが準備を進める中で、この映像配信と各種サービスをバックエンドで支えるアプライアンス型のLBに更改の時期が迫ってきました。

検討を重ねていたところ、Nginxのエンタープライズ版「NGINX Plus」の国内販売をサイオスが2014年7月に開始。かねてより、NGINX Plusの動向に注目していた同社はサイオスから評価版を入手して検証を開始しました。近年向上著しい汎用サーバーの性能と、サイオスによる日本語でのサポート、実機での検証評価を勘案して、高価なLB専用装置の刷新が可能と判断しました。高画質VODサービス開始に先立つ2014年8月、LBはNGINX Plusを利用した新システムに刷新されました。


NTTぷららの4K/60p映像配信の負荷分散機能を担うNGINX Plus

NGINX Plusについては、LB配下のサーバーの詳細なヘルスチェックが可能な点、無停止のままオンラインでconfig修正を行える点などを大橋氏は評価しています。

「NGINX Plusはミッションクリティカルな環境で稼働中ですが、サーバーが落ちるといった不具合は現時点まで起きていません。非常に安定して動いています。物理LBと比較すると安価で、かつ十分な機能を備えていると言えます。さらに、statusページも見やすく運用管理の効率化に役立っています」(大橋氏)

Nginxのさらなる進化に期待

「今後、コンテンツ配信プラットフォームの中で増加してきたキャッシュの整理統合にNGINX Plusを活用し、コストダウンをいっそう図る方針です。さらにCDNとしても利用する構想を温めています」と大橋氏は言います。

同時に、「複数NGINX Plusにおけるキャッシュ共有、コミュニティ版との機能差分の明確化、LB管理UIのGUI化」などを大橋氏は、今後のNGINX Plusの開発に対するリクエストとして挙げました。

NTTぷららの事例は、NginxおよびNGINX PlusなどのOSSを活用し、経営環境の変化に対応するシステム基盤の柔軟性向上や、新サービスの導入を成し遂げた典型的なケースと位置付けられるでしょう。

さて、本イベントレポートの後編では、パブリッククラウドSoftLayerの特徴ならびに、Web高速化のために、SoftLayerとNginxを組み合わせる手法をご紹介。

また、クラウド環境のアプリケーションの可用性を向上させるHAクラスターソフトウェアLifeKeeperおよびデータレプリケーションソフトウェアDataKeeperを活用した事業継続性強化のTipsもお伝えします。お楽しみに!

⇒ 後編「パブリッククラウドを使いこなすポイントは?」記事はこちら