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社員一人ひとりの人生に関わる人事というシゴトの面白さ #3

米国事業会社SIOS Technology Corp.で人事全般をとりまとめる「Head of People and Culture」を務めている坂本真琴さん。今回は坂本さんがHuman Resourceすなわち人材に関わる仕事に取り組むきっかけとなった出来事について聞きました。

カルチャー2022年12月 5日

→社員一人ひとりの人生に関わる人事というシゴトの面白さ #2 はこちら

高校時代に飛び込んだ米国での2年間

―― 坂本さんがそもそも米国で働くようになった経緯を教えてください。
坂本
 アメリカとの接点は、高校時代に遡ります。私はアメリカに住んでみたいという憧れを持つ高校生でした。親と先生に思い切って相談し、高校の留学制度を利用してカリフォルニア州のホストファミリーのもとで2年間を過ごしました。いま振り返ると、ろくに英語も話せない小娘がよく1人で行ったもんだな、と思いますね(笑)。

ステイ先での人間関係など色々と苦労も味わいました。おかげで英語はある程度上達しましたが、世の物事に対する自分なりの見方、考えを確立していないと相手と深く心を交わせられない、という歯痒さを感じました。まずは日本語でしっかり考える力、生きる力を身につけよう、と思い立ち、日本の大学への進学を選びました。経営学を専攻しましたが、どうも自分の中にしっくりきません。「私は経営者になりたいのだろうか」と自問したり迷いを感じたりするなか、ある講座で社会学の先生の話を聞きました。「人の考え方や行動には生まれつき備わった素質などが影響するけれど、それ以上に取り巻く環境によって人生は大きく変わっていく」という話がとても素敵だな、と思いました。それをきっかけに大学を卒業後、社会学と女性学を学べるイリノイ州の大学院に入学しました。大学生時代、社会学の魅力を教えてくれたその先生は今も私の恩師です。

修士号を取得後は、さらに研究を深めたかったのですが、イリノイ州には社会学の博士号を取得できる大学がありませんでした。進学先をどこにしようか探していると、知り合いから「カリフォルニア州にある、ライフサイエンス(生命科学)分野のベンチャー企業で英語と日本語ができる事務方の人材を探している、マコト、働いてみない?」と声をかけられました。

研究の道は諦めたわけではないですが、「ジェンダーや人種による不公平や差別が根強いアメリカで、これまで経営学、社会学、女性学などで学んだ知識を実務で活かせる機会かもしれない」と思い引き受けました。その頃、私はすでに結婚していて夫もカリフォルニア州で仕事を見つけていました。

張り切ってベンチャー企業で仕事を始めたのですが、しばらくしてその会社は潰れてしまいました。その直後に、 STCの人事の職に就くことができました。2011年のことでした。

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米国事業会社SIOS Technology Corp.「Head of People and Culture」の坂本真琴さん

―― その頃のSTCの雰囲気はどんな感じでしたか?
坂本
 2011年の当時、STCは今より少人数の組織で、本業以外の人事総務や福利厚生に関する業務は原則的に社外にアウトソースしていました。ただ外部に委託するコストは決して小さいものではありません。なにより「この会社はSTCという1つの傘の下で皆がともに働いている」という一体感、英語で言うと「belonging(ビロンギング)」感がいまひとつ乏しかったことを覚えています。

そこで、「会社の人材に関わる業務はとても大切です。自分たちの手でやりましょう。私が人事のプロフェッショナルになるので実務は任せてください」と、会社に提案しました。米国の人事関係の資格取得をしながら、私はそれまでのSTCの人事総務部門の在り方を見直すことにしました。

3年ほど経ち、人事業務の理解が深まっていく一方で、自分に足りないところも見えてきました。「私は、そもそもこの会社が何をして稼いでいるのか実は知らない。知らないのに働く人の環境づくりなど偉そうなことはいえない」ということです。STCのビジネスを知りたい、と思いました。そこで、当時のCEOに頼んで経営会議などに同席させてくれないか、発言をせずともオブザーバーとして傍聴するだけでもよいので、と頼みました。リーダー達は私の頼みを受け入れてくれました。

さらに、働くエンジニアやセールスがどんな仕事をしているのか、1対1でヒアリングを始めました。私のクライアントは「社員」である、と考えていたからです。ただインタビューをしたいと申し込むと、たいていの社員は怪訝な顔をします。「人事担当から1対1でインタビューさせてほしいなんて」と、まあ普通思いますよね。私は「いや、他意はない。あなた自身を十二分によく知りたい」と率直に打ち明け、相手の不安を解消してから、1人ひとりじっくり話を聞きました。どういう仕事をして、なぜこの会社にいるのか、どんな思いをもっているか―― Stay interviewといいますが、人事として彼ら、彼女らに何ができるのか、考えを深めることができました。

印象に残ったのは、誰もがこの会社の仲間と仕事できることに意義を感じていたことです。素晴らしい人がいるから、ここで働いている、と。私は、この会社のビジネスの根幹は「人」なんだ、という自分なりの結論を得ることができました。(#4へ続く