検索検索
English

製品・サービスの競争力に直結する「品質」を上流からつくり込む〔後編〕

【LifeKeeperのプロフェッショナルたち #6】サイオスが開発する製品・サービスの品質を高める活動を社内に展開する品質保証部長 村岡伸彦のインタビュー記事後編です。これまでのエンジニアとしての歩み、そして品質保証業務を通じて目指す組織の理想像を聞きました。

ピープル2017年2月16日

製品・サービスの競争力に直結する「品質」を上流からつくり込む〔前編〕 からの続き

世の中を感化(インフルエンス)する製品の開発

― 品質保証という仕事には「守り」のイメージがありましたが、インタビューを通じてだいぶ印象が変わってきました。開発現場のメンバーの一人ひとりが「品質」の概念を理解し、それを追求することは「攻め」の経営に通じます。
村岡:品質は、現状に甘んじることなく、もっといいやり方があるはずだと信じ、挑戦し続ける姿勢がなければ、決してよくなりません。また、そもそも新しい技術がわからないと品質保証はできないのです。社内における「お客様の立場の代理」でなければなりませんから、積極的に情報を集め、外に出てお客様と対話もし、「事実に基づいて」お客様を理解していなければならない。新しい製品ならば、未来のお客様に対する想像力を働かせなければなりません。

テストでも「マニュアルに書いてある通りに動けばいい」というのは初歩。「書いていないけれど、お客様がこう使う可能性があるのでは?」と想像力を働かせないと、お客様の体験する品質は上がらない。

新しいものを作るならば企画から参加する、常に新しいことを学ぶ、現場や詳細に入り込みながらも、いつも冷静に、全体を一歩引いて見られる、ソフトウェア開発と品質保証そのものを科学的な見地で捉えるロジカルな姿勢、などが品質保証の活動には求められるのです。

サイオスにはソフトウェア製品、クラウドサービスのほか、インテグレーションサービスいわゆるSI業務もあります。こちらの分野の品質保証についても、サイオスでは取り組んでいます。

― ところで村岡さんはどういう経緯で、サイオスでの品質保証業務に携わることになったのですか?
村岡:私は大学を出て新卒で富士通に入社した際、いきなり製品を一つ丸ごと任されました。マイクロソフトが開発していた、OS/2 初期バージョンのネットワークOS「LAN Manager」の富士通版開発というプロジェクトです。800ページを超えるマニュアルを渡されて、「1週間後に、開発メンバーにレクチャーしてくれ」と言われました(笑)。当時、会社に泊まり込んで苦労して開発プロジェクトの管理、独自開発部分とOEM部分を組み合わせたテスト、マニュアル制作、マイクロソフトとのバグ修正の交渉を行って、製品化を行いました。

仕事を通じて、製品の開発と商品化をしていくプロセスの全体像を理解できたことが、その後の私のキャリアにおいて武器になりました。その縁でマイクロソフトに転職し、Windows NTの最初のバージョンから19年ほど、WindowsクライアントとサーバーのPM(プロダクトマネージャー)とQA(品質保証)を担当しました。また、お客様が新しいOSで使えるハードウェアとアプリケーションを増やし、かつ、それらを利用していて重大な障害に遭遇しない品質を実現するために、日本・東アジアのハードウェア会社、ソフトウェア会社の方々と一緒に仕事をさせていただきました。自分の関わった製品で社会が変わる、という貴重な体験を幸運にもすることができました。

ソフトウェアを開発・提供して人の役に立つ、喜ばれる、というのは面白い仕事ですが、同時に難しい仕事でもあります。「何をもって成功と言えるのだろう」「今回ここはうまくいったが、あの部分はまだまだだな」と模索しながらさまざまなソフトウェア製品を世の中に送り出してきました。技術や知識の引き出しが増え、それを最大限生かせる仕事は何だろう、と考えるようになった頃に手応えを感じた仕事が品質保証でした。

ITの世界は変化の速度が早く、新しい市場は成熟し、過去はすぐに陳腐化します。かつて担当したように1つの製品を突き詰めていくのではなく、成熟度が異なる製品やサービスを対象に全社的な品質保証体制を作ることに興味が移っていました。常に、新しい製品やサービス、新しい課題が生み出される現場に身を置き、複数の開発チームと横断的に関わりながら、共にその課題を解決し、さらによい製品を作るための仕組みやそれに関する知見、ナレッジを生み出すこと、にやりがいを覚えたのです。
そして、こうした自分の能力と経験が「他の会社でも通用するのであれば、ぜひチャレンジして納得できる成果を残したい」という欲も出てきました。そんな折にちょうど、サイオスに声をかけていただき、品質保証業務を牽引することになったのです。

人材を育て、品質保証プロセスを根付かせる

― 今後、取り組んでいきたいと考えているテーマは何ですか?
村岡:品質保証部に期待される大きな役割として、人材を育て、組織の能力成熟度を上げて、品質目標を達成できるプロセスを定着し、新しい製品・サービスの市場投入とそれらの品質保証と改善を持続できるようにするというものがあります。

品質保証業務そのものが、属人化してはいけません。開発チームが行う品質保証活動がある特定の人に依存してしまうと、その人がいなくなった途端に業務が停止します。そのため、開発チームのメンバー一人ひとりに戦力になってもらうべく、主にOJTを通じて育成に努めているところです。そうした人たちの中からやがて私のように組織全体の品質保証業務に目配りする人が出てくるかもしれません。

そして、マネジメント層に組織の能力の成熟を目標としてもらうことも重要です。品質保証の目的の1つは、対外的なアカウンタビリティを全うするためですが、サイオスで働く自分たち自身のため、でもあります。

― どのようにして開発現場のメンバーを巻き込んでいくのですか?
村岡:「前任者がこうやっていたから皆さんもこうやってほしい」という依頼の仕方では納得や共感が得られず、品質を開発工程の上流から作り込む風土や文化を現場に根付かせることはできません。口先で指示するのだけではなく、正しいやり方を実際にやって見せること。慣れで作業するのではなく、「なぜそうするのか」と意味を理解して行動することが、品質保証においても肝心です。

― 「理解して行動する」という作業はなかなか簡単ではないですが、何かコツはありますか?
村岡:考えたことをメモや単語の羅列だけに留めず、文章に落とすことにしています。ソフトウェア開発においては、ユーザーストーリーや品質目標を、文章として書くことで自分自身も理解が進みます。事実に基づいて客観的に論理の破たんなく書けること、5W1Hを踏まえて具体的に説明できるということは、正確に理解している、人に教えられる、と言い換えることもできます。スクラムで開発に取り組むチームには原則、バックログに完了の条件となる「開発するものが満たすべき要件と品質の目標」を明文化することを課しています。

ただ、書くことに時間を取られ過ぎて、開発生産性が低下するのは本末転倒です。トレードオフの中でどこがベストのやり方なのか、これについてもPDCAサイクルを回しながら、開発チーム全員で探っていくことになります。

品質保証は、LifeKeeperだけでなく、DataKeeper、SIOS iQなどのいろいろな製品を横断的に見ることができます。海外の開発チームとも連携し、多くの開発案件を通じて、品質を高める仕組みやテストのやり方を工夫して行き、周りに伝えていきたいと思っています。

こうした積み重ねを通じて、「サイオステクノロジーの製品・サービスを、ユーザーが安心して利用し続けられるように、自社・パートナーが安心して販売・保守できるように、品質保証をする仕組み(基準・プロセス)を作り、運用・維持する」という品質保証の方針がもはや「当たり前のこと」として実現されていく。そこからさらに「革新的な技術を活用して、オープンソリューションを提供していく」という社名を体現するような、よい品質の製品やサービスをたくさん送り出す、というのが私の目標です。

記事の関連情報