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「つくること」と「支えること」が持続する未来のトークンエコノミー【後編】

世界で初めてとなる日本発の分散型プロトコルDev Protocolを通じて、クリエイターと支援者の双方が経済的価値を得られる仕組みを社会実装するFRAME00(フレームダブルオー)。対談の後編ではFRAME00起業の経緯、今後のチャレンジなどを伺いました。

ピープル2021年8月17日

「つくること」と「支えること」が持続する未来のトークンエコノミー【前編】はこちらから

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FRAME00, Inc. CTO Aggre氏、CEO 原麻由美氏

開発のヒントは「国宝」にあり

――あらためて、スポンサープラットフォームStakes.Socialをリリースするまでの経緯を教えてもらえますか?

 Stakes.Socialをローンチする前、FRAME00では、2018年ごろからDEVトークンを用いたプロトタイプを開発・提供してきました。具体的にいうと、OSSを支援するスポンサーを募り、集めた資金をFRAME00が預かってDEVトークンに交換し、プロジェクトに参画してくれるOSSの収益化を図りました。その時に最初にスポンサーとして参画してくれたのがサイオステクノロジーでした。

黒坂 まず、OSSのプロジェクトというこれまで経済的価値が見えにくかったモノや活動をトークン化して見えるようにしたこと。そしてこれまでの寄付と違って、一方から他方へ資金を送金・移動させる、のではなくお互いに経済的価値が得られる仕組みを作ったこと。この2つが私にとっては目からウロコでしたね。

 ただ、当時はまだ、FRAME00が管理者として大きく介在するモデルで、本来目指している管理者不在、いわば非中央集権型の仕組みにはなっていませんでした。2019年ごろに本格的にベンチャーキャピタルなどから資金調達を行い、さまざまなオープンなアセットをトークン化して流通させる汎用的な経済プロトコルを目指すDev Protocolの開発が加速しました。前述のStakes.Socialは、Dev Protocolのスキームを用いて開発したステーキングに特化したスポンサープラットフォームです。
Dev Protocolは、管理者不在の金融システム(Decentralized Finance:DeFi、ディーファイ、分散型金融)を活用して、クリエイターを支援することを資産運用に変えるスキームに特徴があります。出資してくださった方からは「DeFiにOSSなどの非金融アセットを持ち込んだところが画期的だ」と評価してもらっています。

Aggre トークン化するアセットは、映像や音楽、漫画などの作品、あるいはクリエイティブコモンズのもとで公開される研究論文やオープンデータに関するプロジェクトなどさまざまなものを想定しています。技術面から見るとDev Protocolは、ブロックチェーンと呼ぶパブリックな分散環境の上に作られた分散型アプリケーション(Decentralized applications:DApps)です。Dev Protocol自体もOSSであるため、コードはすべてWeb上に公開されており、誰でも閲覧し、改良に参加することができます。特定の個人・企業・団体などに占有されず、仕様がブラックボックス化しない透明性を常に追求しています。

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Dev Protocolのスキーム

―― 開発者やクリエイターにとっては、既存の資金調達や送金システムとはどのように違うのでしょうか?

Aggre 管理者が介在する金融取引では、金融機関その他のプラットフォーム事業者が仲介する決済サービスなどが提供されています。いわば、仲介される開発者と支援者の間にワンクッション入ります。資金を提供する側も受ける側も、特定の事業者によって決められた仲介手数料を払う必要があったり、ブラックボックス化されたプラットフォームのために開発者と支援者がダイレクトにリターンを得るスキームなどを柔軟に設計しにくかったり、といった弱みがあります。また、仮に仲介する事業者が倒産した場合、開発者と支援者の橋渡しが途切れてしまう可能性もあります。それに対して特定のプラットフォーマーに依存しないことを目指すDev Protocolでは支援者が継続的に支援しやすい環境をつくることが可能です。ところで、Dev Protocolでは、特定の国が発行する法定通貨ではなくDEVトークンを用いていますが、こちらも上記のようなリスクに配慮しているためです。もともとOSSの開発や利用には国境がありませんし、暗号資産もグローバルに利用することができます。

 実は、Dev Protocolの開発のヒントになったのは、国宝建造物の修復プロジェクトでした。歴史ある建造物を修復する職人さん(宮大工)は、何百年も受け継がれる建造物の復元に対し、後世に伝える誇りを胸に仕事をされています。ただ、その職人さんに報酬を支払う会社の年商は決して高くありません。あるITスタートアップの月商とほぼ同じ、ということを知った時、エッと思いました。次代に受け継がれる素晴らしい仕事をされているのだから、もっと高く評価されるべきではないか。このように社会的・文化的な価値が高いのにきちんと評価されていない、または経済的な対価を得られていない、という状況が多くあることは社会的な課題と考えました。

黒坂 支援する方法は暗号資産でも、法定通貨による寄付でもよいですけれど、頑張った人がちゃんと報われる社会にすることが大切ですね。

完成形のない永遠のβ版である世界のサステナビリティと経済プロトコル

――FRAME00では、今後はどのような方向にDev Protocolを展開していく方針ですか?

 今後も、開発者および支援者が持続的に経済的利益を得ながら、OSSを含むさまざまな(非金融)アセットで資産運用できるような経済圏を目指していきます。

Aggre そのため、Stakes.Social、ひいてはDev Protocolは管理者不在で自走する必要があります。ただ、現在もまだFRAME00が運用面でサポートしている部分があります。この介在を早くなくしていきたいと考えています。僕たちFRAME00が関与するプロセスを参加者に信頼(トラスト)してもらう、という部分があると、FRAME00の存続自体がDev Protocolの自走を妨げる不確実な要素になってしまいます。介在する第三者がいないトラストレス(trustless)な仕組みを作ることは必須だと思っています。
イーサリアム*1は、ブロックチェーンの検証を行う採掘者やデジタルトークンの保有者を中心とする、民主的なガバナンス体制での運営に特徴があります。こうしたガバナンスのことをDAO(Decentralized Autonomous Organization:DAO、自律分散型組織)と呼びます。例えるならば、ISO(国際標準機構)や、ウェブの標準化団体のW3C/WHATWGによるガバナンスのやり方のようなものです。Dev ProtocolにおいてもDEVトークンの保有者による民主的なDAOを早期に実現したいと考えています。

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参加者が情報交換するDev Protocol Forum(https://community.devprotocol.xyz/

――OSSは常に開発やメンテナンスによって良くなっていくものです。翻ってこの世界をみても完成形ではなく、常に進化し続けているβ版のようなものだといえそうですね。

黒坂 自分たちが作ったOSSが"完成"してから開発者が、収益確保のための広告ビジネスモデルに頭を悩ませたり、企業に資金を募るために奔走したりするやり方は長く続かないな、世の中の状況に合わないな、と思います。もうそろそろ見直すタイミングですね。

Aggre 僕の夢は、OSS仙人になりたい、というものです。開発者として、フルタイムでOSSの開発に没頭できるならばどんなに幸せだろうと思います。OSSに限らず、YouTubeなどで音楽や映像作品を配信するといったクリエイターたちがそれぞれ持っている創造性を存分に発揮できる世の中になればすごく楽しいだろうなと思います。

 Stakes.Socialで、海外の支援者がOSS開発者に対して「あなたの開発を応援することが私にとって誇りです」といったコメントを書いているのをしばしば目にします。こんな風に思ってくれる人たちが増えていく社会だと、すごくいいな、と感じます。

黒坂 世の中に完成形なんてないですし、誰もが自分らしさや創造性を発揮できる人生を送りながら、社会を良くする継続的なチャレンジであればきちんと評価されること。さらに経済や社会が持続的に回るエコシステムを作っていくことがこれからは大事と思います。今日は皆さんの熱い思いを聞かせてもらい、ありがとうございました。

*本記事の内容は2021年4月インタビュー時点の内容に基づきます。

*1 イーサリアム
イーサリアムは、スマートコントラクト(契約を自動履行する仕組み)を実行するアプリケーションを構築することができるOSSである。なお、これに対して、ビットコインは、暗号資産の所有権の移動に特化したアプリケーション構築に用いられる。

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