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インターネット上のユートピアはまだない

【VOICEs - 社内インタビュー】2001年に誕生したコミュニティサービスの草分け、クチコミサイト「関心空間」が最新のグラフ理論や機械学習技術を用いて生まれ変わろうとしています。深い共感の拡がりが織りなすインターネットの未来とは。同社代表取締役社長CEOの宮田正秀が答えました。

ピープル2015年11月18日

みんなのクチコミサイト「関心空間」の歩み

― 2001年にスタートした関心空間ですが、どのような特長を持つサービスなのか、あらためて教えてもらえますか。
関心空間は、自分の関心ごとをキーワードにして、共感の輪を広げていく情報空間です。投稿される関心ごとの一つひとつを「キーワード」と呼んでいます。


関心空間のトップページ(2015年10月)

利用者個人が自分自身の関心ごとを、自分の「空間」と呼ばれる「マイページ」にキーワードや日記の形で書き連ねたり、他者の投稿を気に入ったらブックマークに追加したり、他者の投稿と自分の投稿に関連性を発見したら「つながり」というリンクを追加していく、といった機能を備えています。

また、気になった情報やユーザーについての通知機能、ユーザー間のメッセージ機能、そして、自分の投稿の管理画面など、今のSNS+αの機能が当初から揃っています。それらの機能がホームページやブログ、CMSに関する専門的な知識がなくても手軽で安全に利用でき、かつ無料で自分だけの"空間"を開設することができます。

さらに、自身の空間に書き込んだ関心ごとをきっかけにして、それを読んだ利用者同士のつながりが生まれます。この広がりをもった情報空間が、"関心空間"です。これまでの登録ユーザー数は約6万人を数えます。


利用者は自分の「空間」にキーワードを登録したり、日記を投稿したりすることが可能。安心して情報発信できる自分だけの"空間"であるとともに、発信した「関心ごと」に対する他の利用者からの反応や共感の広がりなどのコミュニケーションも楽しめる。

関心空間のユーザーは、ある「キーワード」(関心ごと)をテーマとするコミュニティを簡単に立ち上げることが可能だとも言えます。一つ一つのキーワードがネット掲示板での「スレッド」のように、共感する人が集まるコミュニケーションの場にもなります。

そして、それらの関心ごとがつながりあい、重なりあう構造を持った情報空間であることで、共通の関心ごとに共感し合う人同士のコミュニティを無数に内包する空間になっています。コミュニティという言葉の定義は広いですが、投稿の内容やテキスト表現などに一定の約束事やルールがあること、それらは文化や風土と言ってもいいと思いますが、そうした雰囲気に包まれた情報発信や自己表現をするのに安心できる場、ということができるでしょう。

たとえば、「○○高校△△年同期生」といった集まりは、1つのコミュニティと言えるでしょうが、そうしたなじみのあるコミュニティで感じられる「安心感」が、オンラインの情報空間である関心空間のコミュニティ性によって生み出されることは、ユニークな価値といえます。

逆に関心空間では、バズワードや話題のニュースを拡散して、チャラチャラと目立つことはかえって敬遠されるかもしれません。自分の感覚に沿って自分の視点で発信すれば、わかってくれる。関心を持って集まっている人が、たとえ、5人しかいなくても構わない。見る側も、「いいね!」を無理に押さなくてもいい。沈黙していても大丈夫。発信する側は、なんとなく共感のある人が見守ってくれる、という"感覚"がある。そういうものを目指して機能やデザインを作ってきました。

最近、新サービスを詰めていく中で気付いたのは、「タモリ」に近い振る舞いかもしれないということですね。タモリさんは音楽や鉄道や町並みや地形などかなり多方面に詳しくても、淡々としていてウンチクをひけらかしたりしない、かなりニッチな深いところの面白さを、関心がなかった人も引き込むような、遊び心をくすぐるうまいバランスで伝えてくれます。詳しいけど押し付けがましい人っているでしょ(笑)。そうならないところがすごいなと。

― そう思いながら関心空間のロゴを眺めてみると、なんだかタモリさんに似てますね。
このロゴは、そういうつもりはまったくなくデザインしたものなんです(笑)。最近、タモリさんが色々な番組に出るようになりましたよね。それで彼の立ち居振る舞いを見てみると、ああいう雰囲気の場がいいな、とあらためて思うわけです。遊び心があって、押しつけがましくない。濃密でありながら心地いい。そういう場を関心空間でも、提供し続けてきたつもりです。

ソーシャルメディアがしのぎを削りあう市場で

― 関心空間は、どのようにして始まったのですか。
関心空間は当初、そのアイデアを持った創業者とエンジニア、デザイナーの3人で立ち上げられました。僕はクローズドベータユーザーに誘われて触れた時に「これがインターネットそのものだ!」と全身に電気が走るような直観を得て、一気に引き込まれました。2001年のことです。まだ、ミクシィもツイッターもない時代でした。個人がインターネットを使って発信したり、交流したりする手段は、ホームページや掲示板(BBS)くらいという状況のなかで、関心空間のコンセプトは斬新だったのです。ただ、その後、世の中のコミュニケーションの姿がこれほどまで劇的に変化するとは思いませんでしたが(笑)

― 2000年代半ば頃からは、FacebookやTwitterなど海外のSNSが日本にも上陸し始めました。国内でも2006年にミクシィが本格的にスタートしましたね。
目まぐるしい変化の中で、関心空間でも機能やデザインを進化させてきました。2002年には、企業向けのASPサービスを開始しました。企業の製品やサービスのファン同士を結ぶコミュニティ・プラットフォームです。データを顧客マーケティングなどに活用するビジネス価値だけでなく、そこに集まる顧客やファンの「生活の体験」を向上させる場としても機能しています。

また、2003年頃、Googleが検索連動型広告配信サービスAdSenseを開始してすぐに導入してみたところ、テキスト広告のクリック率(CTR:Click Through Rate)が一般的なサイトに比べてとても高い、という傾向に、コンテンツとマッチした広告の可能性を感じました。

そこで、企業向けASP事業と広告事業を柱に、2004年に会社名を「株式会社関心空間」に改めて、B2B2CとB2Cの両市場に本腰を入れて打って出ました。その後、3つ目の柱づくりを目指して位置情報とTwitterのつぶやきを連動させたサービスを、経産省の実証実験サービスへの参画の経験から立ち上げ、一定の成果を収めました。

ただ、正直なところ、新たにSNSやブログなどが群雄割拠した時期で、利用者の争奪戦のような状況に巻き込まれました。経営的に苦しい時期も味わいました。

そうした中で縁あって、株式会社SIIISへの事業譲渡と言う形でサイオスグループに加わり、コア事業に専念できる環境を整えることができました。そして、事業領域もその後いろいろ拡大していたのですが、昨年、もういちど新しい関心空間を立ち上げる、という原点に立ち返ろう、ということになり、社名も2014年12月に再び、株式会社関心空間に戻ることになりました。


関心空間 代表取締役社長の宮田正秀

関心空間の基本コンセプトは、14年経ったいまでも変わっていません。「感動すると人は誰かに言いたくなる。しかも共感してくれる人に『そうだね』と言ってもらえるのが、一番うれしい」――。これは創業者の言葉ですが、いまでも思い浮かぶことがあります。

会社として現在、関心空間では、「本当の共感でつながる幸せな社会」の実現に貢献するというミッションステートメントを掲げています。これは長年、関心空間を運営してきて辿りついた境地、体験のエッセンスです。「本当に共感してくれる人がいる」ということを知ると、人は憎みあったり争ったりしなくなる。あくまでこれは私の仮説ですが、関心空間で培った体験を通じて思うのは、それはあながち間違いではないということです。

インターネット上に思い描くユートピアはまだない

― 新たな関心空間はどこに向かうのでしょうか。
SNSを使って、みんながつながりあう時代になりましたが、課題もあります。「○○疲れ」と言われて久しいですよね。SNSのベースにあるのが、リアルの人間関係なので、色々と気を遣います。それは僕らが創業当初から思い描いてきたインターネット上のユートピアとは程遠い。

この点はサイオスの喜多社長も同意見でしたね。関心空間ではそこにもういちどチャレンジしようとしています。

― 関心空間に関わってきた人には"パソコン通信へのノスタルジー"とは違う、利用者と運営者が新たな気づき(価値)をともに作り上げてきたという肌感覚があって、それをさらに進展させていくのでしょうか。
これまでの関心空間は、利用者が「どう感じるか」に主眼を置いてきました。「ピュアに深い共感を得られる場を作りたい」と考えてきたわけです。その基本的な路線はキープしつつも、新たな関心空間では、「感覚」の背後にあるデータに着目し、利用者が自身の行動を可視化できるようなものにし、さらに深い共感を得られるようにしたいと考えています。

鍵になるのは「インタレストグラフ」

― 既存のSNSと関心空間は直接的に競合するわけではない、と。
そうです。もともと関心空間は、人と人が直接つながるソーシャルグラフではありません。今風に言えば、「関心ごと」を介在させてつながる「インタレストグラフ」です。関心ごとから紡ぎ出される共感の広がりに価値があります。昨今、インタレストグラフにもいくつか代表的なものがあります。ただ、関心空間は自分なりの言葉でまとめたテキストでの発信をベースとする関心ごとでつながるコミュニティを作りたいと考えています。その裏側では、世界で通用する先進のグラフ理論を用いたモデル化の技術や機械学習などを、駆使していきます。仮想環境分析プラットフォームSIOS iQなどの開発に取り組むサイオスの技術チームと連携しているからこそ可能になったことです。

具体的には、私たちは今、情報を集めて、整理して、利用者に見せられるようにするプラットフォームの開発に取り組んでいます。研究開発サイドでは、すでに関心空間に蓄積された30万件近いクチコミ情報をグラフ理論に基づく機械学習にかけてモデル化する試みを行っています。

手元にあるスマホには、写真だったりつぶやきだったり、膨大な「関心ごと」が溜まっています。日々、時々刻々と新たな関心ごとが書き込まれています。しかし、それを使う私たちには立ち止まり、振り返る時間がない。いわばタイムラインのフローの中に流されていきがちです。それでいいのかな、立ち止まってみたらどうかな、というのが「可視化」を目指す発端にありました。溜まった関心ごとを一度見えるようにしよう。その結果、自分でも気づかなかった発見が得られるかもしれない。発見した関心ごとを自ら認識し、その上で人にお勧めし、新たな共感を得る、嬉しさを体験する。いわば、これまで関心空間で利用者が味わった体験をより深化させて、もう一度新しい環境の中で辿ってもらおうよ、という試みです。

かつて関心空間の個人の利用者が感じてくれたこと、ASPサービスを採用してくれた企業が感じたこと。それらを関心空間の利用者を取り巻くいまの環境、技術やライフスタイルに合わせて再構築したい、そんな思いでパワーアップした新関心空間のリリースに向けて取り組んでいます。あの感触を風化させないうちに、もういちど新たな頂を目指そうと、スタッフ一同取り組んでいます。2015年内には、もう少し具体化したイメージをお伝えできればと思っています。

再認識される関心空間で得られる共感の意味

― 最後に宮田さん自身のチャレンジについてお聞かせください。
僕は会社を率いるCEOですが、自分自身を「関心空間」というコンセプトをこの世に体現させるために使われている駒、のようなものだと思っています。関心空間を思いついたのは僕ではないけれども、色々な経験をもとにもう一度、「本当に共感する幸せな社会」に向けて挑戦しろ、と関心空間に突き動かされている。そういう立ち位置だと思っています。不思議なめぐり合わせですが、ありがたいなと思います。

関心空間はスタートして、十数年経ちますけれどその初期のころから、スタッフは僕を含めて、「本当に共感する幸せな社会」につながる感触をつかむという得がたい体験をすることができたと思います。○○疲れのストレスがはびこるこの時世で、関心空間で味わえる共感の感触があらためて再認識されていると思います。

もちろん、リニューアルに挑戦する以上、未知の領域もあります。「インターネットは向こう側にあるもの」という感覚を持たない若い世代にも、パソコン通信で幸せを感じたことのあるオジサン世代にも、新しい関心空間が果たして受け入れられるかどうか。そこはやってみないと正直分かりません。ゴールも含めて、まだまだ手探りです。

ただ、一つ実感するのは、みんなが同じものを視聴する時代は終わったなということです。自分にマッチしたコンテンツを自ら選び豊かな体験につなげる。それは関心空間がずっと目指してきた価値に通じるものではないかと思います。



宮田 正秀(Masahide Miyata)
関心空間 代表取締役社長
上智大学理工学部卒業後、出版社で教育ソフトやTVゲームの制作ディレクション、CD-ROMビジネスの立ち上げを手がける。その後、CD-ROMメーカーでQuickTime技術を用いた音楽ジャンルのCD-ROMをプロデュースした。パソコン通信初期からオンラインサービス、コミュニティの運営に関与し、2000年からミュージシャン佐野元春オフィシャルサイトのWebマスターを務め、ファンコミュニティやFM番組サイトの構築・運営を行った。 関心空間には2001年のスタート時点から運営支援に携わる。2008年10月より現職。鎌倉市の地域コミュニティ「カマコンバレー」の取り組みも応援している。

(取材/2015年8月)